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モヒカンポシェットとは
 
 

買い物に行っても、欲しいものがないのが全ての始まりでした。
 
先ず、キャリアのスタート地点は理学療法士でした。
 
その傍ら、自分が欲しい物を作り始めました。
 
人の身体の構造に詳しくなったことと、人の身体に沢山触ってきました。私は、人の身体や布地を、とにかく触ることが好きです。手触りの触覚が、ダイレクトに私の衝動を駆り立てるのです。身体や布を触ることは、創造する為に必要な情報を得る、一番の手段なのです。
 
作品制作が深度を増すにつれ、必要な布地の量が、日本では確保し辛い状況になってきました。日本の業務用の布販売は基本的には1反(50m)売りだからです。1点物の作品で、1種類の布に50mでは、素材の縛りが大き過ぎです。
 
そこで、年2回のパリへの買い付けへ行くようになりました。
 
パリの問屋街は質が良い布地を、メーター売りしてくれるからです。パリの問屋街へはこれからも行き続けます。けれども、今の私を魅了するのは、魂が入った布地を作っているアジアを含めた全ての国です。
 
私は日本に生まれ、日本の文化を自然に受け止めながら、今の自分が形作られたと思っています。そんな私が様々な国で、素晴らしい布地たちに出会った奇跡。
 
世界中で今この瞬間も、素晴らしい素材たちが生まれていることの豊饒さを感じています。
 
モヒカンポシェットと世界中の国の文化が出会う結び目として、素晴らしい素材があります。
 
その結び目がモヒカンポシェットの衝動と技術に出会い、服作品となって新たな結び目になる。
 
服はまだ見ぬ誰かと出会い、着られ、新たな結び目を生み出していく。
 
私と素材たちと、まだ見ぬ誰か。
 
今までは閉じていたお互いの関係が、3つの出会いで次々に結びあっていく。

モードは西欧の文化です。基本的には春夏・秋冬モードに合わせて世界中のアパレル業界が新作を発表し、服が工場で生産され、世界中で消費されるという巨大な脈動を持って自律的に動いています。
 
その脈動に最初に結ばれたのは、戦後の日本でした。
 
日本の発展と人件費の高騰で、その脈動はタイに結ばれます。そうやって順番に東南アジアの国々に、モードの結び目が繋がってきました。
 
その結び目が生み出してきたものは、一見すれば発展という名の西欧化に見えますが本質は違うところにあると思います。

本質を読み解くカギは、私との素材たちとの出会いと結び目にあるのです。
 
自分と日本を振り返ってみるとよく分かります。
 
戦後GHQの占領政策に続き、資本主義を推し進めた高度経済成長、思想的には未だにポストモダンの影響下にある日本。グローバリズムを推し進め、合理化に次ぐ合理化の末に私達はどうなったのでしょう?
 
日本は、西欧化を果たし、合理化を進め、日本の魂が入ったものつくりをやめたのでしょうか?
 
私にはそうは思えません。
 
西欧と日本の閉じた文化圏が、資本主義とポストコロニアルと出会って結び目になった結節点に、新たな魂が生まれつつあるように感じています。
 
同じように、東南アジアが西欧化していったとして、完全に合理化して西欧と同質のものになりはしないでしょう。
 
それぞれの国としての閉じた文化圏同士の結び目が、膨大に増えていくのだと思います。
 
グローバリズムによる人やモノ、資本の流れの中でそれぞれの組織や個人というシステムが結び合う。
 
この結び目が他の結び目と出会い、新しい様相を生み出していく姿こそが、これからの世界の姿だと考えます。
 
コントロールはできないし、するべきでもない。ただその結び目が現れるのを知覚していくのです。知覚できたのならば、形にして創造します。
 
世界中の魂が入った素材たち・私の独習の縫製技術・触ることの触覚・湧き上がるる衝動・過去の作品からのフィードバック・今気になっていることやその他の事象、これらすべてはその事柄だけで完結している独自のシステムです。
 
旅することのグローバリズムや、こうやって文章に書き出すことも、独自のシステムに含まれます。
 
独自のシステム全てが結び目を作ることで、新たな結節点が生まれます。
 
それが私の服作品として結実していく。
 
そこに生まれる作品は、まぎれもない世界と日本と私が結節した、最新のコンテンポラリーモードとして生まれます。
 
これは世界の重層的に折り重なる社会、歴史、資本の流れの終着点でもあり、出発点でもあるのです。